遺言書とは、相続手続きを簡略化するものでもある

遺言書は、遺言者の意思を反映させるものという側面の他に、相続手続きを簡略化するという側面があります。

相続手続きには、凍結された口座の解除&お金の移動や、法務局での不動産の登記などがありますが、相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議書が必要になります。
そして遺産分割協議書には何を記せばよいかは、1つ1つの相続で異なるため、専門性の高い書類となっています。相続人全員の署名押印も必要であり、だからこそ相続手続きという仕事があるわけです。

遺産分割協議というのは相続手続きにおいて基本的に必要な行為ですが、法的に正しい遺言書で、相続人が遺言に対して異論がなければ、遺産を分けるうえでその遺産分割協議書が不要となります。
今はwebに相続手続き等のやり方は載っています。しかし自らで相続手続きをやろうとすると、市役所、銀行、法務局などの機関1つ1つで取り扱いが異なるため、休日9として少なくとも3、4か月は潰れると考えてもらった方がよいです。

それでも自らで相続手続きをやってみるという人もいるでしょうし、子供が自ら手続きを行うタイプだという人は、手続きを簡略化する面では遺言書はかなり有用な書類です。例え相続人が兄弟2人で、2分割するという場合も同じです。
私の事務所では相続手続きは最低13万2千円(税込み)ですが、自筆証書遺言では6万3千8百円(税込み)です。子供たちに相続手続きを簡略化させるという意味で遺言を選択するという道もあると思います。

遺言の種類は大きく分けて二つあるので、どちらにしたらよいか悩む人もいるかと思います。公証人を通して作る公正証書遺言は、ベテランの弁護士や元検察官を通して作られる「公文書」であるこれが最大のアピールポイントです。
お墨付きがあるから、銀行手続きなどではスムーズに進むことが多いのです。

また認知症の疑いがあれば、長谷川スケールと呼ばれるフィルターを通して認知症を判断されることが多いので、遺言に対する意志能力について担保されやすくなります。
公正証書遺言があっても相続人の1人がその有効性を訴えることは可能です。ただ公正証書遺言が無効であると主張を通すには、なかなかに高いハードルであると思われます。

自筆証書遺言は、自筆であるがゆえに法的に正しいかが問題となります。書き損じがあり、遺言が「遺言書」として機能しない場合、それはただの紙です。自筆証書遺言書を書くときは、専門家に見てもらった方が無難でしょう。
以前は自筆証書遺言の保管場所が問題となっていました。遺産分割協議が終わった後遺言書が出てきて青ざめたという話が以前はありました。しかし今は法務局で自筆証書遺言書を保管(電子化)してもらえます。保管制度では、亡くなった後、連絡する相続人を指定することも可能になっていますので、以前よりも利便性は向上しています。

公正証書の方が安心安全ではありますが、自筆証書遺言は公正証書よりも安く作ることができるというのが一般的です。どちらが自らにとって有益かは、それぞれの事情に応じて考えてみるとよいでしょう。

なお遺言があっても、相続人全員の同意があれば遺産分割協議(遺産分配)をやり直すことができます。遺言者の意思はもちろん大事ですが、現在を生きる相続人当人らの意思も尊重すべきであるという法律作成者の意図が見えるところです。