デジタル遺産についての相続と考え方と事前対処

まずデジタル遺産についての定義を行っていきます。
「ネット上などで管理運営されて収益性・換金性があるが、相続での扱いが社会通念的にまだ明確でないもの」をこの記事ではデジタル遺産としたいと思います。Youtureなどのアカウントやチャンネルがこれに該当するでしょう。またポイントやマイレージ、SuicaなどのICチャージ型電子マネーについてもデジタル遺産としたいと思います。

ネット銀行やネット証券は一般的な銀行や証券と同じく、それぞれに相続手続きが用意されていますので、私の定義したデジタル遺産からは除外させて頂きます。また暗号資産もビットコインなど有名なものであれば規約に基づいて相続手続きを行えることから、今回 深堀はやめておきます。
なおYoutubeのアカウントやチャンネルなどの相続についても、「死去したユーザーのアカウントから資金を取得するためのリクエストを送信する」という項目がヘルプ内にありますので、相続可能と言えるでしょう。

デジタル遺産でまず最初にみるべきは、「利用するサービスの規約」です。
利用するサービスに相続について書かれてあれば、その通りに事を進めることができます。
マイレージについては各社にその規定があり、相続手続きが可能です。ただ相続開始(会員の死亡)から6か月以内に手続きを行わないと、ポイントが失効されてしまうような期限が設定されているものもあるので、その点は要注意です。

ICチャージ型電子マネーが遺産分割の対象になるかはまだ定まったと言える状況にはありません。
ただ私の意見としてはその存在や額の証明が容易で換金性があるため、遺産分割に含めるものであると考えます。この考えのもとになった法律や判例は以下のものになります。
・「一般的な預貯金については、預金保険等によって一定額の元本およびこれに対応する利息の支払いが担保されている」(預金保険法第3章第3部等)
・「その払戻手続きは簡易であって、金融機関が預金者に対して預貯金口座の取引経過を開示すべき義務を負うこと」(最一小平21年1月22日参照
以上のことから踏まえ、預貯金とICチャージ型電子マネーの性質を比較して判断すると、ICチャージ型電子マネーは遺産分割に含まれるのではないかと私は考えるわけです。

他の型の電子マネーはどうかというと、ポストペイ型電子マネーはクレジットカード会社と提携し、後日支払い請求がくるため、上記法律の内容や判例に該当するかは不透明で、相続手続きが行えるかはその利用規約次第といったところになるでしょう。
有名なPayサービスであるLINEペイ、楽天ペイ、Paypayなどはポストペイ型やプリペイド型など選択できるため、将来の相続を見越すと利用規約をよく読む必要があると言えます。

またセブン&アイ・ホールディングスが発行するnanacoは、規約上、利用者が死亡すると残高が失効し、現金による払戻も応じていないとされています。nanaco(会員規約)
Paypayも前はnanacoと同じく残高が失効すると定めていましたが、今は、規約を改定して相続手続きが行えるようにしています。Paypay残高利用規約
このように有名なサービスでも内容は異なりますので、一定以上残高を増やす場合は、特に利用規約を読む必要があると言えるでしょう。なお相続について規約に書いていなくても、個別に対応してもらえる場合もあるため、相続の場合は諦めずコンタクトをとってみるのがよいと思われます。

ゲームアプリはどうでしょうか。スマホゲーム等で長期的にゲームが運営され、1つアカウントに数千万単位で費用をつぎ込んでいる場合があります。大抵の運営側はアカウントの譲渡を規約で禁じていますが、アカウント売買が非合法ながら(規約で禁止されているものの)公然と広告されている実情があります。
結論から言うと、相続を認めていないゲームのアカウントについては、相続手続きはできないと言えるでしょう。アカウント売買のために相続したいと言っても、規約で禁じているわけですから、安易な換金性は存在しえないからです。
アカウント売買以外・・・故人の偲ぶために一時的にアカウントを利用とか、相応の理由がある場合は、運営に個別に相談してみるしか方法はないと思います。

デジタル遺産(ここではネット銀行を含む)の相続の問題点は、相続人がその存在を知らずに遺産分割を行う可能性が高まることです。現在の80代辺りはネット銀行を使う人が少なくても、その下の世代からは利用している人たちも多くなるでしょう。
デジタル遺産(ここではネット銀行を含む意味)をスムーズに承継させるために、私が提唱したいのは自筆証書遺言保管制度を活用することです。保管制度では財産目録も同時に電子で保管してくれますので、デジタル遺産の存在を記すことができます。また保管制度は、代表相続人になりそうな人に相続発生の通知(遺言者の死亡通知)が届くように指定することも可能です。

こういった国の制度を利用すれば、確実にデジタル遺産の存在をそこまで高くない料金(自筆証書遺言保管制度の利用料金が1件につき3900円)で、相続人に知らせることができます。
SNSのアカウント消去などを遺言で指定することは行えませんが、負担付遺贈(条件を負わせ、その代わりに財産を委譲する方法)ならば、アカウント消去などの行為を相続人等に行わせることもできます。
遺言というものがどういうものなのか、形式はどのようにしたらよいのか、遺言保管制度や負担付遺贈などの疑問質問がありましたら、お近くの専門家へ相談してみて下さい。

他には、民間会社においてもデジタル資産の承継サービスを始めたところがあります。リンク先のakarecoなどがそれに当たります。デジタル遺産の承継については、自筆証書遺言保管制度を利用するよりもっと柔軟に対応することが可能です。民間の会社ですので、経営破綻などの危険ももちろんありますが、サービスが10年・20年と続く中でその信頼性は高まることでしょう。

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