ローマのユリウス・カエサルはブルータスらの手によって暗殺されましたが、暗殺という劇的な政変があったにも関わらず、アウグストゥスの手に国家運営という事業承継が比較的スムーズに移っています。これにはカエサルの遺言などの事前準備が功を奏したと言われています。
ユリウス・カエサルの遺言そのものの「原文」は現存していませんが、古代の歴史家(プルタルコスやスエトニウスなど)の記録や伝承から、主要な意図や内容については次のように解釈されています。
- 全ローマ市民への金銭的贈与 カエサルは、単なる個人の財産分与を超えて、全ローマ市民に一定の金銭(古代史家によれば一人あたり300セステルティウス程度との説もあります)を贈ると伝えられています。これは、彼の死後に市民との直接的な結びつきを再確認し、政治的・社会的支持を獲得するための意図があったと考えられています。なお300セステルティウスは現在の日本円に換算すると10万位で、ローマ市民が約40万ぐらいといわれていおり、配ったのは40億程だったのではないかと言われています。
- 後継者の指定 事実上だけでなく、遺言による養子縁組が法的に成立したとされています。またアウグストゥスが相続人に指定されることで、カエサルの後継者へと名実共に指名されたとされています。
- 巨額の遺贈 アウグストゥスへの巨額の遺産の指定(遺産の4分の3)は、カエサルの意志を継承し、彼自身が築き上げた政治的改革や国家運営の方向性を未来へと引き継がせるための戦略的な動きでもありました。なお予備的遺言としてブルータスが他の友人と共に指定されていたとされています。
- その他の個人・集団への配慮 カエサルは家族や親しい友人、かつ彼の政治的・軍事的活動に協力してきた者たちに対しても、個別の遺贈を行ったとされています。そして個人所有する庭をローマ市民のための公園にすることなどが行われたとされています。これらの配分は、単なる私人としての財産分与だけでなく、彼の政治理念や忠誠心に対する評価を示すとともに、均衡と安定を図ろうとする狙いがあったと理解されています。
アウグストゥスは後世、ローマの初代皇帝と評されるまでに至るわけですが、カエサルの遺言がなければ難しいものだったと考えられます。そして国家運営という事業承継は、以下のようなポイントがあったからこそスムーズにいったと考えられます。
- 56歳前後で暗殺されたが、それ以前に遺言を残していたこと
- 後継者として名や地位だけでなく、財産的な裏打ちをして、名実ともに後継者を指定していたこと
- 周囲にも配慮をめぐらせていたこと
- アウグストゥスの欠けた部分を補完するため、軍事的な才能溢れるアグリッパを残したこと
国家運営と事業承継を同列に語ることはできないかもしれませんが、カエサルの周到な準備は、現代の事業承継や遺言作成においても参考になる部分があるのではないでしょうか。
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