相続における「お一人様」とは

「お一人様」を「相続人が全くいない人」と定義した場合、法定相続人がいない人と捉えることができます。法定相続人には7つのパターンがあり、これらに該当する人がいない場合、相続において「お一人様」ということになります。
「お一人様」の財産は、最終的には国に帰属することになります。なお国庫に帰属した財産の総額が2017年度は約525憶円だったものが、2022年度は約768憶円になり、年々増加しています。

法定相続人としてあり得る7パターンについて述べていきます。
①配偶者のみ②子(または孫)のみ③直系尊属(親や祖父母)のみ④兄弟(または甥姪)のみ
⑤配偶者+子(孫)⑥配偶者+直系尊属⑦配偶者+兄弟(または甥姪)
ゆえに親族とは言え、義理の兄弟や義理の甥姪に相続権はありません。ただ相続権がないとは言っても親族ゆえ、病院や警察から遺体の引き取り等を依頼されることがあります。

「お一人様」がなくなったとき、どういうことが行われているのでしょうか。
2018年の人口動態調査によると、国民の80%以上が病院等の施設で最後を迎えています。
入院時に身元保証人を立てておらず、一人も身寄りがない人が病院等で死亡した場合は病院側が把握している範囲内で、近親者や同居人に連絡し、遺体を引き取り、死亡届の届人になってくれるようお願いします。
病院側がお願いしたものの、こういった人たちが当該処理を行ってくれない場合は、病院長が死亡届の届人になり、病院所在地の市区町村に死亡届を提出します。そしてこれを受理した市区町村長は、職権で戸籍に死亡の記載します。
引き取り手がない遺体は、墓地埋葬法に基づいて市区町村が簡易な葬儀をし、火葬します。火葬後の遺骨は、官報で公告を出して遺骨を保管します。市区町村ごとに定められた保管期間(5~10年ほど)が経過した後に、市区町村が管理する集団墓地に納骨されます。
このときかかかった費用は、墓地埋葬法/行旅病人及行旅死亡人取扱法に基づき、故人が病人等の施設内に遺した金銭などから支払われ、不足分は公費で賄うことになります。

自宅等でなくなった場合は以下のようなことになります。
警察が遺体を引き取り、医師立ち合いのもと、検視官が検視を行います。事件性がないと判断された場合は遺体は医師に引き渡され、死体検案書が作成されます。
警察は親族に対し、市区町村への死亡届の届け出や遺体の引き取り、死後の手続きの一切を依頼します。
遺体を引き取ってくれる人が全くいない場合は、警察が市区町村に死亡通知を出し、死亡通知を受けた市区町村が戸籍に死亡記載を行うことになります。
これ以降の火葬から埋葬までの流れは、上記と同じです。

「お一人様」が自ら築き上げた財産を国庫に帰属させたくない場合、遺言書を残すというのはとても有効な手段です。ただ注意点が1つあります。
「お一人様」が、遺言を残す場合、「全部包括遺贈」で「受遺者を遺言執行者に指定する」ことをお勧めます。
まず全部包括遺贈について話すと、一人に財産全部を譲り渡す時だけでなく、「私の遺産の2分の1をX、4分の1をY、4分の1をZに遺贈する」という場合も「全部包括遺贈」となります。
相続人が全くいない人が遺言を残す場合、「全部包括遺贈」で「受遺者を遺言執行者に指定する」利点を述べます。
「お一人様」が一部の財産だけを遺言で譲り渡そうとすると、相続財産管理人を選任する必要があります。つまり受遺者以外の第三者が相続にかかわってくることになります。ですが財産を譲り受ける人、「全部包括遺贈」の受遺者を遺言執行者に指定すると、受遺者だけで相続財産を処理することができることになります。
全部包括遺贈はマイナス財産も相続させてしまうので、その点は要注意です。ただ「お一人様」が特定の個人に財産を譲り渡したいと思う時、「全部包括遺贈」で「受遺者を遺言執行者に指定する」遺言を残すというテクニックがあることを覚えてもらえればと思います。

・「お一人様」が亡くなった時に遺言などがない場合、相続財産管理人によってその財産は最終的に国庫へと帰属されます。そしてその相続財産管理人は、2019年7月8日付けの日経新聞によると、2000年の7639人から、2017年の21130人へと約3倍に増加しているとのことです。国庫へ帰属される財産の総額などからも、「お一人様」は確実に増えていることがわかります。
自分の財産を自らの意思で処理したいと考える方は、遺言などの事前の準備をお勧めします。なお「お一人様」が亡くなった時、共有持分がある場合は、その共有持分は他の共有者が受け継ぎます。もちろん亡くなった方に特別縁故者がおり、財産分与を請求した時は、それが優先されます。

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