重度障害者の親亡き後を考えると遺言の有用性は大

まずこの記事の重度障害者とは、契約書等を交わすことができない「意思能力のない者」を指します。
そして遺言の有用性が上がるのは、重度障害者を含めて相続人が複数人いる場合になります。

遺言書を残すメリットとして、親亡き後のことを任せる人に対し、かなり負担軽減ができることにあります。

意思能力がない重度障害者が相続を行う場合、成年後見人がつくことになります。
重度障害者以外にも相続人がいる場合は、相続を行うために成年後見人の申立てを行う必要があります。
成年後見人を申し立てる動機として、1番割合が多いのが預貯金等の管理・解約です。


引用:成年後見関係事件の概況(令和5年1月~12日)

上記の割合が高いのは、金融取引に関して本人が認知判断能力が低下し、代わりに手続きを行おうとする法的な代理権がない親族に対しては、成年後見制度の利用を求めることが基本と、2021年2月18日に全国銀行協会が発表していることも要因の1つだと考えられます。
この記事の重度障害者も、本人が手続き等を行えない状態であることを想定しているので、同様の動機で成年後見人の制度利用を考える必要が出てくると考えられます。

では成年後見人の申立てというのはどのようなものなのでしょうか。
①申立ての準備・・・・必要書類の収集/申立書類の作成/申立書類の提出の手続
②審理・・・・・・・・申立書類の審査/申立人等の面接/親族への意向照会など
③審判(確定・登記)・裁判所が後見人を誰にするのかを判断し、成年後見人の仕事が始まる

参考資料:成年後見・保佐・補助申立ての手引(東京家庭裁判所後見センター・東京家庭裁判所立川支部後見係)

必要書類の収集だけでもかなり数の書類を収集しなければなりません。必要となる可能性のある書類の一部を抜粋して記載します。
・診断書は、本人(この記事で言う重度障害者)の主治医
・戸籍や住民票、固定資産評価証明書は、市区町村役場
・預貯金や有価証券の証明書は、必要となる銀行や証券会社
・登記されていないことの証明書は、法務局
・不動産等の登記事項証明書は、法務局

成年後見人の申立てに有する期間は、成年後見関係事件の概況(令和5年1月~12日)によると、申立書類の提出から審理まで1か月以内に終わるものが38.5%、2か月以内に終わるものが71.8%、4か月以内に終わるものが93.7%となっています。収集書類を集める時間、全ての申立書類の記入に要する時間を考慮すると、成年後見人の申立てには更に時間がかかることが想定されます。

親亡き後というのは、葬儀や相続、各種解約など様々な手続きが行われます。
相続についても必要な人は10か月以内に相続税を払う必要があったり、令和6年4月1日から3年以内の相続登記の義務化が始まり、期限が定まっているものもあります。

上記の手続きに加えて、成年後見人の申立てを行うとなると手続きを行う人の負担は増大します。
重度障害者の兄弟に親亡き後を任せてたとして、その手続きの煩雑さを緩和する手段として遺言があるわけです。
親亡き後、後を任された人が重度障害者のためにまとまったお金が必要なのに、成年後見人の申立てを行わないと遺産に全く手をつけらず、途方に暮れる場合もあるかもしれません。本来であれば相続人全員で遺産分割協議を行って相続手続きを進めるのですが、意思能力がない障害のある子が相続人いるという状況なので、成年後見人がつかないと遺産分割協議が行えません。この遺産分割協議の代わりになり得るのが遺言というわけです。

重度障害者の親亡き後を考えるにあたり、遺言について是非一考して頂ければと考えております。
またその遺言に関しては、障害者のある子の親亡き後ならではの考え事、書き方もありますので、専門家への相談をお勧め致します。

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