近年では同性愛への理解も深まり、福岡県では令和4年4月1日よりパートナー宣誓制度が設けられています。この宣誓制度により、提携している福岡県下の市町村では公営住宅等の入居や医療同意権などが法律上の夫婦と同じように認められます。しかし、相続や財産分与といった分野では、同性パートナーと法律上の夫婦では雲泥の差があります。この記事では既存の制度や法律を使い、上記の場面において何かしらの代替えができないか考えるものとなります。
相続の代替手段
- 遺言書の作成 パートナーに財産を確実に渡すためには、公正証書遺言を作成するのが有効です。これにより、法定相続人ではないパートナーにも財産を遺贈できます。
- 死因贈与契約 生前に契約を結び、死亡時に財産を譲渡する方法です。遺言と似ていますが、契約として成立するため、より確実性が高い場合があります。
- 養子縁組 パートナーと養子縁組をすることで、法律上の親子関係を築き、相続権を得ることができます。ただし、親子関係を持ち込むことに抵抗を感じる人もいるため、慎重な検討が必要です。
- 生命保険の活用 生命保険の受取人をパートナーに指定することで、財産を渡すことが可能です。アフラック、かんぽ生命、オリックス生命、ソニー生命、第一生命、日本生命などの保険会社では、同性パートナーを受取人にできる保険商品を提供しています。
注意点
- 遺留分:法定相続人には最低限の遺産取得分(遺留分)が保障されているため、遺言書を作成する際にはこれを考慮する必要があります。
- 特別縁故者制度:相続人がいない場合、同性パートナーが特別縁故者として財産を受け取れる可能性もありますが、これからの議論や判例の積み重ねを待つ必要があり、確実に頼れる制度とは言えません。
財産分与の代替手段
組合契約や匿名組合契約は、本来は投資や事業共同体の形成を目的とした商法上の仕組みですが、その仕組みを応用して、経済面や資産管理面でパートナー間の連帯感を強化する手段として利用することもできます。
組合契約を締結しておくと、組合関係から脱退する一方の当事者は、他方との間で、脱退時の組合財産の状況に応じて清算することが規定されています(民法681条1項)。そのため、離婚の場合の財産分与と同じように、パートナーが共同で作り上げた資産があれば、出資に応じて残余財産を分配するよう請求できます。なお脱退前に生じた債務は負担することになるので、その点は注意が必要です。
同性愛者やパートナー制度を利用するカップルが組合契約を利用する例をあげると、通常の婚姻関係で享受できる経済的保護(相続、資産分与、万が一の補償など)を補完するため、双方の出資や役割分担、利益の分配方法、さらには解消時のルールなどを明確に定めた匿名組合契約を締結するケースが考えられます。
――具体例―― AさんとBさんという同性パートナーが、共同で小規模なビジネス(オンラインショップなど)を始めるとします。
- 出資と役割分担
- Aさんは資金面での出資を主に担い、Bさんは事業運営(マーケティング、運営管理など)に注力するとします。
- 利益配分のルール
- 事前に匿名組合契約で、出資割合や役割に応じた利益配分の比率、万が一事業が解散する場合の資産の処理方法などを詳しく定めます。
- 万が一の場合の補償
- たとえば、一方が急な健康不良や事業上のリスクに直面した場合にも、契約に基づいて一定の買い取りや補償が行われ、経済的な安全網として機能させることが可能です。
このような取り組みは、婚姻による法的保護が得られない場合でも、経済的側面において一定の安定性や公平性、双方の責任・権利を明確にする効果が期待されます。ただし、これらの契約は本質的に事業契約であり、民法上の婚姻制度で認められる配偶者の法的権利(例えば、税制上の優遇措置や社会保障など)は自動的には付与されません。
また、組合契約や匿名組合契約を用いたアプローチは、将来的な法制度の変更や裁判例の動向によって、その実効性や取り扱いが変わる可能性もあるため、最新の情報をもとに定期的な見直しが求められます。
このように、経済的側面においてパートナー間の連携や相互扶助の仕組みを構築するために、組合契約や匿名組合契約の仕組みを応用することは可能ですが、「夫婦のような法律上の保護」の代替ではなく、あくまで経済・事業上の契約上の取り決めとして位置づける必要があります。しかし、遺言書や生命保険、養子縁組等の制度と組み合わせることで、より包括的な対策を講じることが可能です。
なお組合契約の出資はお金に限らず労務提供でもよいし、事業も営利を目的にしなくてもよいとされていることもお伝えしておきます。
上記の「一方が急な健康不良による補償」について、契約条項の例
【第○条 急な健康不良に基づく経済的補償】
- 定義 本条において「急な健康不良」とは、医師の診断書または医療機関の正式な証明により、当事者がその業務遂行に著しい支障をきたす、または事業活動に重大な影響を及ぼす健康状態に急激に陥った状態をいう。
- 通知義務 急な健康不良が発生した場合、該当当事者(以下「健康不良発生者」という)は、速やかにその事実および内容(発生日、病状、業務への具体的影響等)を、書面並びに医師の診断書によって、相手方並びに本契約に基づく組合(または匿名組合)の管理者に通知するものとする。
- 補償の請求 健康不良発生者は、当該健康状態が業務遂行に支障を及ぼす状態である旨の診断書の発行日から起算し、30日以内に本条に基づく補償の請求を、書面により相手方及び本組合に対して行うものとする。
- 補償金額の算定方法 補償金額は、以下の要素を考慮のうえ、健康不良発生者と相手方との間で別途協議し、書面により合意した算定方法に基づいて決定する。
- 本契約に基づく出資額および現状評価額
- 健康不良発生者の事業活動への貢献度
- 健康不良による業務遂行不能期間の見込み
- その他、双方が合理的と認めた要件
- 支払方法及び時期 合意された補償金は、健康不良が継続する期間に応じた月次分割払い又は一括払いのいずれかの方法で支払うものとし、支払方法、分割回数および期日については、補償金額決定時に双方で明確に定める。
- 見直しと協議 健康状態の改善が認められる場合または補償金支払い期間中に状況に変更が生じた場合、双方は誠実に協議の上、補償条件の見直しを行うものとする。
- 本条の存続 本条に基づく補償請求権は、本契約終了後も、健康不良発生時に遡及して有効に存続するものとする。
この条項は、急な健康不良によりパートナーの業務遂行が困難となった場合に、事業継続や双方の経済的安定を図るための一つの手段です。具体的事情や事業の性質に合わせた補償方法や算定基準については、事前に専門家との協議の上、文言の細部を検討することをお勧めします。
この記事は執筆当時の法律等に基づき作成されておりますが、完全性や正確性を保障するものではありません。記事の内容を参考される場合は、詳細な検討をお願いします。