なぜ遺産相続は揉めることが多いのか、その原因と対策を考える

はじめに

大前提として、遺産相続問題は親の死後の話になるので、家族間で話を切り出しにくく、情報の共有化がなされることが少くないということを留意して下さい。

ではなぜ遺産相続は揉めることが多いのか、その原因と対策について考えていきます。

遺産の分配について親の気持ち等を知る機会が無く、相続を迎えてしまうこと

一人親である母親と長男夫婦が実家に同居しており、その母親が亡くなった時の相続をお話します。

相続人は長男の他、弟と妹がおり合計3名です。弟と妹は県外に住んでいます。
母親は介護認定されていませんでしたが、足腰は弱くなっており、長男夫婦は通院など生活の様々な面で母親をサポートしていました。対して弟と妹は家を出ていたので、母親の世話に関してはノータッチでした。

この相続に遺言はありません。長男は実家を継ぐ以外にも、母親をサポート面で法定相続分以外にも多少の色を付けて欲しいと思っていました。対して弟と妹は、実家は長男が継ぐのだから、法律上要求できるお金が欲しいと考えていました。
母親が介護認定されていたら、長男夫婦の苦労は想像できたかもしれませんが、そうではないので大変さは実感しにくいものでした。

結局、遺産分割協議は長男夫婦の思い通りにはならず、不動産の登記を行うためにも弟と妹の要求を呑むしか方法はありませんでした。
母親がよく長男夫婦に「いつもありがとう」と言っていたといっても、遺産の分配についてどう思っていたのか今となっては知ることはできません。

今回の相続において、遺言があり、そこに「長男夫婦には大変お世話になっている。長男夫婦に多めに遺産を残すことを認めて、これからも仲良くやってほしい」という旨の言葉(付言事項)が残されていたしたらどうでしょうか。

親の言葉は、遺産相続をする上で子供たちの指針になります。
親が相続についてどう思っているのか、子供の立場から聞くとしたら家族会議をして、兄弟とその情報を共有するのが一番かと思います。
親の立場からすると、家族会議の他に、遺言で自分(親)の想いを残すこともできます。遺言が優れているのは、自分自身だけで完結することにあります。もちろん遺言の内容を根回しすれば、その内容の実現はより高まりますが、一人で完結するということは遺言の魅力の1つと言えるでしょう。
なお遺言が敷居が高いなら、銀行手続きや不動産登記手続きに使えないという面で格はどうしても下がってしまいますが、エンディングノートに自らの想いを書き記すことも、一つの手段であると考えられます。

実家を売るとき、手取りが意外と少なくなりがちという事実を知らないこと

上記の相続例で、長男夫婦が実家を継いで弟と妹が法律上決められた相続分の金銭を受け取った場合をお話していきます。

不動産の価値を計算するときは、国税庁が公表している路線価から計算して、概算を出すと思います。
この概算は当然売買時の指標となり得るものなのですが、不動産を売るとなると各種税金や、整うべき設備などが存在し、多額の費用がかかってしまうことがあるのです。

例えば実家の売値が1000万で売れるとしても、諸費用を差し引くと手取りは600万なんてこともあるのです。

では諸費用とはどんなものがあるのでしょうか。いくつか羅列していきます。

①不動産譲渡所得税
②相続登記のための司法書士への依頼料(法務局に納める登録免許税含む)
③境界線を調べるための土地家屋調査士への依頼料
④農地転用が必要なための行政書士への依頼料
⑤更地にするための解体費用
⑥庭の伐採費用
⑦側溝を改めて作る費用
⑧水道管を改めて引く費用
⑨建物内部の荷物を処分する費用

①については、国税庁が空き家を売った時の特例を出していますので、それを読まれておくとよいかもしれません。

②登記の名義が、親のままでは売ることはかないません。親の名義から相続人の名義にかえることを相続登記と言います。

③については、ブロック塀があったとしても土地家屋調査士への依頼は必要だとお考え下さい。境界標がしっかり埋め込まれ、境界線がきっちり定まっておかないと、取り扱ってもらえなかったり、売値がかなり下がることを留意して下さい。

④について敷地の一部が登記簿上「農地」になっている場合の話です。一見普通の庭だけど、農地から宅地に切り替わる農地転用ができてなかったというケースも存在します。

⑦については、古い建物だと側溝が現行の制度上は不十分な場合があります。更地にして建物を建設するために県の許可が必要で、そのためには雨水を逃がす側溝を作り直す必要があるときがあります。そのため不動産屋が側溝を作る費用を差し引いて、買値を本来の値段より減額するなんて場合もあるのです。

⑧については、大元の水道管から数件の水道に分かれていた場合にこの費用が発生します。
昭和の時代などは、親の土地の一部を子供に分け、子供がその土地に建物を建設するなんてことが頻繁に行われていました。親子関係などでは、水道管を新たに引くより、元あった水道管から枝のように分かれて水道を引いた方が費用が浮いた場合がありました。そのため大元の水道管から、何件もの建物が水道管を引いている場合が存在します。
こういった不動産を売るならば、故障時の対応などを考慮して、新たに水道管を引くことになるでしょう。そのため水道管工事も、不動産を売るときの費用に含まれる可能性があるのです。

⑨については、遺品整理業者を入れないと建物内部にある荷物が片付かないということがあるでしょう。相続に必要なものまで処分してしまわないように、普通の不用品回収業者でなく、専門の業者が入ることになるため、これまた多額の費用が発生することになります。

今回のケースでは、上記の費用がもろもろかかり、1000万円で売れるはずが600万になったというケースになります。そして上記の費用は、実際に業者や専門家が、内容や状態を見てみないと分からないものばかりです。
今はインターネットで路線価からある程度の売値を算出することも可能ですが、本当に売れるのか、売れたとしても手取りはいくらになるのかまでは、容易には計算できません。
誰かが実家を相続して、他は金銭を分配するというときは、路線価による計算だけでなく、費用がかかっても不動産屋などに見積もりを出してもらうべきだと感じています。

なお不動産の売買は、道路に始まり、道路に終わると言われるくらい道路が大事です。
そもそも道路の幅が一定以上ではないと建物を建て替えることすらできません。
諸経費がさほどかからずに不動産を売れるという場合もありますが、諸経費がかかり想定より受け取る金額が少なくなる可能性があることを留意して頂ければと思います。

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